6月が終わってしばらくたちますが、日本にはまだ夏らしさが訪れませんね。
少し気温の高い時期が続いたのも束の間、その後は1か月ずっとジメッとしている異様な天気。
そんな日本をよそに、パリを中心としたヨーロッパでは、6月から7月にかけてファッションウィークが開催されました。
俗に、”パリコレクション”や”ミラノコレクション”と呼ばれているファッションの一大イベントです。
大胆なプリント柄やパターンが盛り上がった2020春夏のコレクション
多くの有名ブランドやデザイナーが威信をかけて制作するコレクションですから、それぞれに特有の個性があり、そのどれもがファッション好きにとって興味深いものです。
しかし色とりどりの個性が輝く一方で、デザイナーの感性によって生み出される服の数々には、世相やその時代特有のらしさのようなものが反映された、一定の共通点や方向性があります。
それが”トレンド”と定義され、コレクションに参加するような大手ブランドのみならず、広く一般に親しまれるブランドやリーズナブルな日常着にも影響を与えていきます。
では今回、2020年春夏のファッションウィークでは、どんな傾向がトレンドとして現れたのでしょうか。
筆者は、「プリント柄」をトレンドとみて注目しています。
目次
権威ある媒体もプリントに注目
弊社ベビーロックプリンティングが、コレクションのトレンドをプリント柄と主張するのは、いささか都合が良いと思われてしまうかもしれません。
弊社はプリント柄の布を作るサービスを展開していて、自社の商売にポジティブな話題ですからね(笑)
ですが、あながちこの見立ては間違っていないかもしれません。
なにしろファッション業界でも権威ある媒体の繊研新聞社も、今回のコレクションではプリント柄が目立ったということを、本紙やWebサイト、ツイッターなどで端的に書いていました。
20年春夏パリ・メンズコレクション プリントとデコンストラクトhttps://t.co/DBZe9YDbdl#繊研新聞 #senkenplus pic.twitter.com/mbkhMpNPCf
— SENKEN+plus (@SENKENplus) June 21, 2019
プリント柄をルックに用いたブランドは、錚々たる顔ぶれ
今回のファッションウィークでプリント柄を取り入れたブランドは枚挙に暇がありません。
気鋭のブランドから老舗のビッグメゾンまでプリントを多用しており、それがトレンドたる所以と言えそうです。
下記に、積極的にプリント柄を取り入れていたブランドのインスタグラムポストを、5つ紹介していきます。
HERMES(エルメス)
老若男女問わず、高級ブランドとして多大な知名度を誇るエルメスは、ひときわプリント柄が目立っていたブランドの一つです。
シャツやジャケットといった、コーディネートのメインディッシュとなるアイテムに大胆なプリント柄を施しました。
プリント柄自体は派手な印象ながら、カーキやブラウン、ネイビーといった落ち着いたカラー使いで、日常着として悪目立ちしない実用的なコレクションピースを展開しました。
RAF SIMONS(ラフシモンズ)
ここ数年、圧倒的に若者の支持を集め続けるラフシモンズは、もともとプリント柄が得意なブランドです。
現代アーティストの絵画や気鋭カメラマンの作品をプリントでアイテムに落とし込む手法で、自身のコレクションをさながらクリエーターの発掘の場のように演出してきました。
数年にわたってストリートのトレンドを支配していたビッグシルエットの仕掛人だったラフでしたが、今回のコレクションでは極端なシルエットやディティールの強調は鳴りを潜めました。
一方で、英文によるメッセージや黒く塗りつぶされた星条旗の柄などをプリントで表現。プリントに光沢が見られるところから察するに、恐らくラバープリントでしょうか。アパレルへのプリント手法としては最もポピュラーな方法の一つです。
ラフのように、デザイナー本人に社会的影響力がある場合、その思考・思想をプリント柄で表現することで、アイテムがメッセージ性を帯びるものなのですね。
Sacai(サカイ)
今やパリ・ファッションウィークでも目玉ブランドの一つとなった日本のブランド、サカイ。
レイヤードや異素材、アイテムのドッキングなどで常に既製服の新しい可能性を示してきたブランドですが、今回はテキスタイルプリントにも注力していることがうかがい知れるルックとなっています。
中でも、アロハシャツブランドのSUN SURF(サンサーフ)との協業によるパームツリー柄のテキスタイルは、今までのサカイのイメージとは一線を画す仕上がりです。
VALETINO(ヴァレンティノ)
そして、2020SSコレクションで最もテキスタイルプリントを活用していたのがヴァレンティノでした。
このムービーを見ていただければ一目瞭然ですが、シャツ、ハット、バッグ、コートに至るまで、どこまでもプリント尽くしのルックは、次のトレンドがプリント柄であることを確信させる迫力です。
コットンのプルオーバーパーカーや、レーヨンやリヨセル系のドレープ感のあるシャツに施したプリントは、元の素材の質感と相俟って殊に美しい出来映え。
柄の精密さや鮮やかさから言って、布用インクジェットプリンターでプリントしたテキスタイルであることはほぼ間違いないと思われます。染料プリントか昇華転写はわかりかねますが、ヴィヴィッドな発色をみるに、昇華転写っぽいなという印象。
UNDERCOVER(アンダーカバー)
前出のサカイより以前から海外でも国内でも高い評価を受けているアンダーカバーも、プリント柄を取り入れました。
従来ポップなカラーリングやプリントを得意としていたアンダーカバーですが、今回わざわざ春夏らしくないブラックな世界観を持ってきたのは、パンクやロックに造詣の深い高橋盾デザイナーらしい試みです。
黒やテーラリングアイテムといった、一見遊び心の出しにくいチョイスながら、テキスタイルには多くのギミックが施されています。
上記のポストにあるように、特定の絵柄を、パッチワークや刺繍、昇華転写プリントなどで作品に落とし込みました。
以上、プリント柄が目を引いたファッションウィーク参加ブランドをご紹介してきました。
紹介しきれませんが、このほかにも多数のブランドがプリントを取り入れていて、次なるトレンドを予感させていました。
プリントで気軽に差別化や個性出しが可能に
今回のコレクションの傾向を、7/2の繊研新聞が一面で報じていましたので、トップ記事のリード文を引用でご紹介します。
20年春夏欧州メンズコレクションは、鮮やかな色と柄に焦点が当たった。ストリートスタイルと一部のラグジュアリーブランドが市場を席巻する中で、新しい美しさに迫ろうとするブランドは限られ、全体に沈滞ムードが漂っている。結果として、新しいカットで時代を切り開くよりも、色と柄で市場に上手く収めるコレクションが増えている。
出典:繊研新聞 2019年7月2日付 1面
この文章を端的に要約すると、「カッティングやディティールで目新しさを示したブランドはなく。マーケットにウケる色と柄が目立った」ということだと筆者は解釈します。
確かに、どのブランドのコレクションも日常に問題なく馴染むデザインが多く、洋服の新しい価値を示すような変化に富んだブランドは見られなかったように思います。
ただこれは逆説的に、「カッティングやディティールで個性を出すのは難しくとも、色や柄で変化をつけることでマーケットにフィットできる」ということも言えるのではないでしょうか。
そういう意味で言うと、インクジェットプリンターによる布プリントは、少量で多種のプリント柄の布を生産できるため、色や柄によるマーケットでの差別化に最適なサービスと言えるかもしれません。
この記事で紹介したようなブランドは、資本も人員もすべてのリソースが大きいですから、プリント柄で差別化を図るのは打てる手の一つでしかないかもしれませんが、多くの個人クリエーターや小さなブランドにとっては、一つ一つの選択がブランドの存続をかけた判断になるでしょう。
あらゆる場面でリスクを減らす選択が迫られますが、少量多品種からオリジナルのテキスタイル(プリント布)を作れるサービスは、リスクを低減しながら個性を出すことの一助になるかもしれません。
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